観劇ブログ(雑記ちゃん)

かなり個人の見解です!

2022年前半の観劇を振り返る④(2022/9)

 

 

 

■9月 花組『巡礼の年〜リスト・フェレンツ、魂の彷徨〜』作・演出/生田 大和

→行く予定だった公演が中止になり、千秋楽の配信を鑑賞。

生田君と言えばCASANOVAやシルクロードが大好きな私。この前の宙組公演のシャーロックホームズも素晴らしかっただけに、今作も期待して臨みました、が、正直今一つ刺さりませんでした。主人公リストが報われなかった少年時代を経て一躍時代の寵児となった後も埋められない空虚な心や理想をどう昇華していくかというような話だったのですが、単純に後半のあらすじが穏やか過ぎました。当初の設定ではもっと根無し草感を前面に出していくのかと思いきや…。同じ音楽家主人公ベースでいうと、ウエクミ先生のFFFではこれでもかとドラマティックに物事を描いてなおかつ並行して進めていましたが、リストはただ一人の人間が悩んで、それでも自分の中で解を求めて生きていくだけのあらすじなので、有名芸術家の伝記っぽいわりに特に何も起こらないんですよね。彼が体験するのは少しの恋と逃避だけ。戦いも革命も愛も友情もすべて蚊帳の外。おおっと思わせるショパンやサンドといった魅力的な人物も途中からパタッと存在感を消し、最後出てきても精神世界の人間なので不安定な存在。煌めく冒頭のピアノだんじりのテンションまではすごく良くて、このまま最後までかっ飛ばした方が痛快だったのではないかとさえ思いました。

▼良かった点

・ピアノだんじり

・音くり寿さんの素晴らしい歌声と芝居。最後の歌のパート、本当に感情がのった圧巻の歌声…もっとソロが欲しかった…。

▼個人的に微妙だった点

・音楽家には歌の上手い役者をあてがうべき。トップスターとの持ち味と大きく乖離している。

・登場人物が大劇場向きじゃない。明らかに余ってます。別箱くらいの人数だったら面白かったのかも…余った人を使う演出がなく、少年時代のとことか無駄に初年役者を出して大量に回らせたりして困惑。

・まどかちゃんの紺ドレス。包帯みたいな首のデザインがしっくりきていないせいで顔と肩のバランスが気になってしょうがなかった。あと人妻なのにリボンを頭に何個もつけるのはあんまり…(時代考証的に正しかったらごめんなさい)

・CASANOVAやシルクロードではラップが効いていたが、今作のラップはハマってなかった。コメディ感が一切必要ない革命にダサい歌詞は必要とは思えず。

 

ショー グルーヴ『Fashionable Empire』作・演出/稲葉 太地

→大前提、衣装がびっくりするほどにFashionableじゃなかった。でも珍しい。夏にこの衣装は暑くない?もうそこが気になって、テーマが全然入ってこなかった。あらゆる衣装の謎さを除けば、構成自体は穏やかでシンプルな稲葉先生らしいショー。退団者にあまり優しくないので、ここが超素敵とかエモっと思うポイントがあまりないが、めちゃくちゃ嫌なとこもなく。せっかくのEmpire感も王冠等でもっと出しても良かったのでは?聖乃あすかくんのメイクが冬霞以来激変していて大変かっこよかった。深音ちゃんの代打パートもGOOD。若草さんのエトワールが晴れやかで良かったのが救いかな。大変な期間の公演中止にもかかわらず、いつも前向きにひたむきに頑張るタカラジェンヌの皆さまへ拍手。

 

 

■9月 舞台「漆黒天」

→映画漆黒天も鑑賞済…だったが行く予定だった公演がなくなり急遽配信で鑑賞。

・映画ざっくりあらすじ

記憶喪失の主人公「名無し」が追われていて、逃げながら様々な人に襲われて返り討ちにする中、自分と瓜二つの顔のもう一人の自分「宇内陽之介」に出会う。自分はいったい誰でどんなことをしてきたのかと必死に思い出すが結局わからない。自分(の顔)に恨みを持つ全ての人間を斬った後、「名無し」もしくは「宇内陽之介」の顔をした人間が一人青空を見上げてエンド(双子なので見分けがつかない)

・舞台版ざっくりあらすじ

日陰党がのさばる江戸を守るため、討伐隊が結成され町の道場師範の「宇内陽之介」も召集。しかし日陰党のリーダーは自分の双子の兄弟「旭太郎」であったことがわかり、「宇内陽之介」はどんどん自我を同じ顔の「旭太郎」に引き込まれて狂っていく。同時に「旭太郎」も日の当たる人生への妬み嫉みから「宇内陽之介」の人生の乗っ取りをたくらみ、双方限界まで自我を無くしていき…?

 

・感想

登場人物は9割主人公に切り殺され、舞台版はその前日譚とのこと。何を見ても、でももうこの役は劇場版では斬られるんだよな…と悲しくなりながら見る安定の末満スタイル。舞台版も主演の荒木くんの大健闘。二役を行ったり来たりでめちゃめちゃ忙しい。荒木君のファンはこれぞ推しの真骨頂と拍手喝采だったのでは?私も昔Dボ時代から見てますが、すごい役者になったなと思いました。

個人的な解釈としては、陽の主人公が陰の主人公に成り代わられたというエンドだと思います。長妻・松田凌の長兄エピが絡んでくるかと思いきやここはあっさり。梅津と奥さんの冷静な良い争いが理性的でかえって一番つらかったし、愛している男を取り違えた時の観客の虚しさは半端ないです。梅津、劇場版と違ってこちらはかなりやりがいある役だった!敵はしょうへいへい等主役級を起用している割に活躍が目立たず、足元に縋り付いて泣くシーンの芝居がなければ憤慨してたところでした。ちょっと意外だったのは「旭太郎」も日陰党のリーダーとして、現実的な制圧プランを組んだり、余所の勢力を警戒したり、クレバーなカリスマ性を秘めていたところでしたね。双子という神秘性を上手く使った展開の奇想時代劇ノワールでした。