観劇ブログ(雑記ちゃん)

かなり個人の見解です!

宝塚花組「冬霞の巴里」の考察について

最近配信及び千秋楽の観劇が出来た「冬霞の巴里」の考察について、備忘として記録を残します!

指田先生は、上田先生と似ている作風(あくまで似ているだけ、当然同じではないです)でとても好みでした。星組の「龍の宮物語」も映像で観ましたが、先生はファンから主役へ求められている姿を存分に出させる演出と異形の者の描き方への潔さが上手いですね。新たな一面というよりは、その人の一番得意分野で愛おしい姿になるように緻密に計算されているかと思います。先生、ひとこちゃん×復讐にかわいい弟キャラを足すというとんでもない萌えを生み出してくれてありがとうございます!!

今回特に気になったオクターヴの記憶の霞みと謎の多いアンブルをメインに、個人的な解釈をメモします。※当方は元々エリーニュスのティーシポネーの咲乃深音ちゃんのファンなので感想が偏っているのは悪しからず。

 

 

 

【ざっくりあらすじ

パリで記者になったオクターヴ(25)、歌手の姉のアンブルと共に、6歳の時に殺された父親の仇を打つため、義父(叔父)と母親への復讐を目指す。

 

【考察】

・三という数字の対比について

エリーニュス三女神と、イネス・アンブル・オクターヴ達三姉弟は対(キャストの男女比と罪)。諸説あるが、ティーシポネーは殺戮・メガイラは嫉妬・アレクトーは道徳、とそれぞれの罪を犯した者と対峙する女神だと仮定して話を進めます。

また、オーギュスト事件の犯人もクロエ・ギョーム・ブノアと三人ですね。最後に撃ちあいになるのも、オクターヴ・ギョーム・ヴァランタンと三人です。

 

・民衆に混ざった女神エリーニュスの動き

冒頭等々、ティーシポネーはあまり市民と踊らず、アレクトーとメガイラは混ざって踊ります。これはパリ市民の中で行き交う人々に道徳違反や嫉妬等はあるが、殺意まではいかないということかなと思います。チャリティーの場面、メガイラは貴族の格好でお喋りに興じ(慈善は身分の差によっては偽善、人々の中で互いへの嫉妬が生まれている、)、アレクトーはカメラのレンズを通して人々を見ている(道徳的観点で人々を監視?)、ティーシポネーは給仕係、飲み物が盆から取られるのを待っている(人々が自ら殺意を選び取る?)…他にもクラブや食卓に現れる時、オクターヴが嫉妬しているときはメガイラが背もたれに手をつけていたり、様々な負の感情の発生時に女神の誰かが側にいます。笑顔の女神が狙いを定めた人間の感情の揺れに対して、剣呑な目つきに変わる芝居の流れがとても自然でした。

一幕はティーシポネーの不思議な歌声(素晴らしい)によって始まり、終わりはガラス屋根を歩くティーシポネーの恐ろしい歌声(素晴らしい)と赤い布(血染め?)によって街が覆われます。

二幕は親殺しを司るエリ―ニュスの本分として、オクターヴを追い立てるように三女神が常に監視しています。親殺しを諦めたオクターヴは冬霞の中で最後エリ―ニュスから解放されますが、ティーシポネーの二人を寄せるようなマイムでオクターヴとアンブルの手がお互いの腰に回されて舞台から去ります。殺戮によって始まって結ばれた絆は、恋よりも強固で永遠に続くということでしょうか…。それにしても咲乃深音ちゃんの歌声もダンスも本当に素晴らしかったですね…。

 

 

・家族のバックボーンについて

ティーシポネーの歌声「悲しみの始まりはどこ?罪の始まりはどこ?」で示す通り、オクターヴは父親の死がすべての不幸の始まりだと思っていましたが、実のところの不幸の元はオーギュストの悪行でした。

①クロエ

夫を亡くしたクロエがイネスとアンブルを連れて、裕福なオーギュストと再婚。→女癖の悪い夫は使用人との子、オクターヴを家に連れてくる。→イネスとの「さまざまな問題」、とりわけ貴族との結婚を強行させようとしてイネス自殺。→嘆き怒り狂ったクロエはオーギュストの排除を画策し、同じようにオーギュストに苦しむ義弟ギョーム(とブノア)を味方に。

②ギョーム

オーギュストは百貨店を強か経営していて、アーケード街の個人商店は次々と廃業に追いやられ、ますます巴里では経済格差が生まれる。→市民は貧困の一途をたどり、アーケード街の住民の中では恐らくアナーキストになった者も…。→ギョームは諸々兄の強引な事案の後始末をやっていたが、自身の失敗(劇場爆破事件でのアナーキストの誤認逮捕、恐らくこの中にヴァランタンの親がいた)をネタに更に強請られ、警察の正義と身内の不始末の狭間で苦しんでいる。

また、クロエもオーギュストも、オーギュストを排除した後ずっと血塗れのオーギュストの幻影を通して罪悪感に囚われている事が窺えます。

 

・主人公オクターヴくんの記憶が霞んでいる問題

本題です。この作品のオクターヴの回想シーンを本当にあったこと捉えた場合はオクターヴにとってオーギュストは良い親だけどほかの人にはそんなこともなかったね…となり、人は多面体だよね~と解釈になりますね。ここで終わっちゃうと結構浅い物語なのではないかと。

ここから個人的な解釈ですが、作中のオクターヴの記憶はほぼ全て偽りで塗り固めた理想の家族姿=妄想だと捉えながら観劇しました。冬霞のタイトルは天候だけでなく記憶が霞んでいることや人によって物事の捉え方が曖昧であることを表しているのかなと思います。衣装のマーブル模様で何かが混ざっているような気持ち悪さが常に現れていますし…(衣装自体は最高にかっこいいです、有村先生最高!)

観客側にはオクターヴとアンブル以外はオーギュストを非難する人ばかりなのに、オクターヴには良い父親?女を取っ替え引っ替えしていて、会ってた時間も少ないのに?と疑問が増えていく演出からしても…更にオクターヴは復讐のために生きてる故に視野の狭さが浮き彫りになり、家族に対して一方的な見方をしてきたことが如実に窺えます(ただこれはアンブルが無条件に彼の偏見を肯定し続けた弊害でもあり…)

例えば、父親からの「母と姉には秘密だよ?」のフレーズ。現実は孤独なオクターヴを憐れんだギョームからお菓子を買ってもらった時の話(大人のギョームの回想なのでこれは現実にあった)ですが、自分の生きる意味の復讐を確固するものにするため度々思い出しています。多分その時ギョームに焼き栗を買ってもらったのかな。(幻想の記憶の中ではオーギュストに置き換わり、アンブルもいた)これ自分がしてもらって一番嬉しかったことだからエルミーヌにも焼き栗を与えているのだとしたら…。幻想の誕生日会も席に座っているのはギョーム…。

かたやこのギョーム、とてもやさしい男で、エリ―ニュスが見守る緊迫したサーベルの勝負にヒヤリとさせられながらもオクターヴを信じて最後まで付き合ってくれるのもギョームです(この後ブノアとクロエはオーギュストの血を恐ろしがっていたが、その場にギョームはいなかった)

姉弟の下宿にアナーキストがいると知って身辺を探らせ、シルヴァンの騒動と怪我の具合を食卓で指摘した時、オクターヴたちは身を固くしていたけど、実はギョームは彼らの身を案じていたのだとしたら…ヴァランタンによって遮られたけど話が続いていたのならもっと違う展開になっていたかもしれません。また、武器を持ったヴァランタンには強い態度で向かっていきましたが、背後からオクターヴに襲われたときは心から傷付いて全くの無抵抗になっていました。

クロエはイネスを奪われてオクターヴを押しつけられたた怒りがオーギュストを殺したことを上回っていたけれども(最後もオクターヴに断罪しなさいと許可を出す強さ)が、ギョームにとってはオーギュストは兄弟でオクターヴは甥。本当にオクターヴへの罪悪感を持ち、家族として思いやっていました(冒頭の食卓の切れないナイフ話しかり…)クロエはギョームの境遇や自分たち家族への愛情をありがたく、またなんと大事に思っていたのかと最後の抱擁を見て感じました。

オクターヴは結局父親に「仇を取ってくれ」と願われているように自分で暗示をかけており、それがアイデンティティーでした。だから最後に追い詰められたオクターヴは「父さん、誰でもいい!誰か俺に命令してくれ…!」と請い願ってしまいます。しかもその時また復讐の連鎖を生みだして、ミッシェルを引き摺り込もうとしていましたが、ミッシェルは少しもそんな考えはなく…これもまたギョームの性格を継いだ優しい息子…。

ということで話はそれましたが、白い服で出てきた回想シーンはほぼすべてオクターヴにとっての自分のミッションを正当化させるために作り上げた偽りの記憶(ドレスが一緒だったり、部分的には事実も含む感じ)でしょう。

イネスが死んだことを親の命令で秘匿されていたせいで少しずつ記憶が歪み、やがて父親が死んだ現場を見たショックでイネスの存在を完全に忘れ、自分の存在価値のために復讐を選び、同時に根拠となる都合のいい父親の記憶を確立させ始めたというように見えます。

 

・一番難しい?アンブルというミステリアスな人間について

オーギュストが使用人との子供を勝手に作ってクロエに養育するよう預けたことで、当然オクターヴの存在が気に入らないクロエはオクターヴにやさしくせず、親からの愛情を受けれずにじたばたするオクターヴを彼の出自も知った上で哀れに思ったアンブルは世界で自分だけが彼の味方であるというようなアイデンティティーを確立させていきます。また同時に愛するオクターヴに愛情を注がないクロエの存在は彼女にとって敵とみなされ、彼女が嫌がるようにオーギュストと会話をしたり言うことを聞いたり、一種の当てつけのつもりだったのではないかと。母親に愛されたいオクターヴの気持ちへの嫉妬もあり、ここからはずっと女VS女ですね。

(※姉のイネスの死によってオーギュストを何故敵として憎まなかったのが作中で描かれないのが難しい…しかし後からギョームの回想でイネスの事件後のアンブルはぼーっとしていてオクターヴと一瞬疎遠になったとオクターヴの口から語られており、ショックを受けていたことは間違いなく…)

オクターヴの唯一の肉親だからということなのか?、はたまたオクターヴの為になると本気で信じていたのか、ここでアンブルはイネスの仇のオーギュストの命令を聞いて、「少しの歪み」としてオクターヴにイネスの事を少しずつ忘れるように仕向けます。ただ直後オーギュストの死と大人三人の会話を盗み聞いたことでアンブルは、オクターヴからすれば唯一の肉親を奪った仇の女の娘ということに。この正しい構図(クロエたちはオクターヴと血がつながっていない)をオクターヴに知られたら、もう同じ価値観を共有できなくなると思って焦ったアンブルは徐々にオクターヴを復讐の道へ後押しすべく少しずつ優しい父親の記憶の歪みを増やしていきます。

ただオーギュストの死の背景を探るというフェーズで引き下がれないぐらいにはオクターヴの精神と記憶は壊れており、結局ブノアへの復讐までいってしまい、「あと二人を殺せばすべて終わる?」に頷いてしまったわけですが…彼が罪を犯すほどに味方はアンブルしかいなくなり、アンブルは本当の意味で彼を手に入れることができたのですね。まさにこれを表わしていたのがセイレーンの歌でしょうね。共にいたい一心で暗い海へ引きずり込み…結果身を滅ぼす…

とはいえ、二人は作中で恋愛関係にはなりませんでしたが、崩れ去った幻想から抜けた後、お互いの存在だけがお互いを助けられるピュアな関係であることだけを認識して終わります。

 

娘を育てるためか社交界で地位を確立させ、数々の男と浮名を流したクロエの姿を通して、アンブルにとって恋愛は始まってすぐ終わるものに見えている。私はあんな風にはならないという態度を取り、オクターヴとずっと一緒にいるには「家族」でいることが一番だと強く思いこんでいるのでしょう。

またクロエはアンブルの気持ちに気付き、オーギュストの血が流れるオクターヴと共にいる事が不満だが、仕事を持って家を出た大人だからもう好きにしなさいとばかりに突き放したのはクロエなりの二人への赦しだったのかなとも思います。(見た目上は姉弟なので…)

 

【感想】

長々書きましたが、特に好きだった演出。

・危うげな魅力のヴァランタンとシルヴァン

元が真面目故に起こるシルヴァンの暴走をコントロールしたいヴァランタンは冒頭から監視している演技が上手かったですね。背中の黒子しかり、ヴァランタンと追随するシルヴァンの関係は…シルヴァンの尊敬を超えた執着やヴァランタンの憐れみを超えた後悔等、何か二人だけで抱えている秘密が多そうな余白ある演技が良いです。親の復讐ってのはそんなに偉いのか?が自分にも刺さっていく構図が見事です…。

劇場でのシルヴァンの爆破テロはヴァランタンに初心を思い出させるためにやったのか…。同時にギョームには誤認逮捕事件を思い出させ、家族であるオクターヴが怪我をしたことで今度は自分が被害側になってしまい、心配の分と同じだけの贖罪の気持ちも湧き上がるという精神の追い詰められ方をしているところに事件の化身であるヴァランタンが現れる…なかなかの地獄です。

 

・あまりに善良なカップル、ミッシェルとエルミーヌ

ミッシェルは自棄になったオクターヴに酷い言葉で詰られても、兄の心を慮ることのできない自分が悪い、それでもどうか無力でも側にいることを許してほしいと兄を傷付けないように心を砕くところが特に泣けました(その優しさがオクターヴを更に惨めにさせる…)

エルミーヌも、アンブルが母親に人前で攻撃的な物言いをした時もわざと好意的に解釈したように振る舞い(本当に言葉通りに受け取ったのはフェロー男爵夫人)、オクターヴへやましいことがないからこそ堂々と散歩。陽気に振り回して街を歩くように見せかけ、実際は元気のないオクターヴを家族として心配しているからこその行動なのも良いです。オクターヴがエルミーヌに惹かれたのではなく、恵まれたエルミーヌの存在を通して、いたかもしれない幸福で余裕のある自分に焦がれていた演出が上手いです。

これ普通の宝塚作品だったら、エルミーヌがヒロインになって、ミッシェルに嫌がらせをするために彼女にちょっかいをかけて、怒ったミッシェルと決闘なんて筋書きになりそうですが…そういうのが無かったのがあまりにも偉い展開。 エルミーヌはちっともオクターヴに恋心がなく、ミッシェルも全くエルミーヌのオクターヴへ行動に嫉妬しません。それはミッシェルが愚鈍でもなく、二人が情け深いだけなのがスパっとわかるセリフ回し(女に好かれる女の描き方!)が良かったですね。二人はアンブルのステージを見る時も恋人なのにオクターヴを真ん中にして常に両側から冗談を言って和まそうとしたり本当にいい人です。

ちなみに最後に銃を向けたヴァランタンへ、丸腰で突進していったミッシェルの自己犠牲精神にも泣けた…偉い…家賃もありがとう…。

 

・復讐の連鎖の止め方

最後シャルルの中にヴァランタンたちを侮辱する者への復讐の炎が燃えそうになった時、貧しくて余裕のないはずの人々が彼に寄り添ったことで鎮火し、エルミーヌの持ってきたガレットの小さなフェーブが希望を灯したように思える演出がとても良かったです。それの何が悪いの!とエルミーヌが主張した時に、軽口をたたいた市民サイドに怒りを覚えず(明日を生きるために強くて自立していて偉いとも思った)に、でもエルミーヌありがとうという気持ちが起こる…すぐエルミーヌを交えて団らんも始まるし…本当に不思議な気持ちの良さです。

 

最後になりましたが、夏にDVD発売も決定しましたね!

またそちらを見て色々考察を深めたいと思います!!指田先生の次回作に期待大です!!!